しちさん21 (hatena)

アニメや特撮系を中心に、楽曲・映画・イベントなどの感想を書きます。

【小説感想】葵せきな『ゲーマーズ! 11巻 ゲーマーズと初恋マルチエンド』

前回記事から早速になりますが、最新刊も読み終えたので感想記事です。ネタバレ全開なのでご注意ください。



ちなみにブログの機能で貼れるのでリンク先はAmazonにしてあるんですが、Book☆Walker以外(?)は電子版はひと月遅れなんですね。最初からそっちで買っておけば良かったなぁ。(Book☆Walkerコチラ。)

それぞれのエンディング
 サブタイトルと本編の一致度合いに定評のある『ゲーマーズ!』。「初恋マルチエンド」と銘打たれた今巻は、複雑に絡み合った人間関係にいよいよ決着がつくエピソードとなりました。

雨野と亜玖璃
「……なぁ、アマ公。もしこの恋愛劇がお前を主人公とした物語だったとして、オレ様がそこに途中参加した意義みたいなものが、あるのだとしたらさ。それはきっと──今、この時の、ためだと、オレ様は……いや、私は、思うんだよ」(本文より引用)
 さて、9巻から登場したアグリさんの従姉かつゲーム部元部長・伏黒真音さん。率直に申し上げますと、私は彼女があまり好きではありません(好きな方には申し訳ないですが)。理由はまあ色々ありますが、ザックリ言うと1つは人格、もう1つが”物語上の異質さ”。この内、前者については「人格形成の背景やらは理解できたけど、それに基づいてこちらに必要以上の圧をかけてくるような人とは絶対お近づきになりたくねえや……」という気持ちから来るだけの話なので別にいいんですが、後者については割と問題だと思ったのですよ。所有権どうこうの話は全然ピンとこなくて共感できないし、今さら(恋愛的な意味での)新ヒロインになるわけもないし、ハッパをかける役回りならずっと見てきたコノハがいるわけで。なので何故このタイミングで新キャラ……とは思っていたのですがまあ当然ながらそんなことは承知の上での登場だったようで、上記引用のようにこの上なくわかりやすく「役目」を果たしてくれました。

 その役目とは、「雨野とアグリの関係の決着」。互いに男女としての意識はないと言い続けるも、コノハが指摘するように「ただの友達」の範疇を大きく上回ってもいたこの関係。ここにも決着をつけてくれたら嬉しいなとは思っていましたが、想像以上に綺麗な形の〆となりました。
 今となっては完全に整理がついているけど、交流の最初も最初の頃にほのかに抱いた恋心(のようなもの)。その存在を認めた上で、改めて完全に断ち切るための"部外者"真音だったのかなと思います。言ってしまえば極端に潔癖なやり取りですが、でもだからこそ誠実な雨野らしいとも。それこそゲームで言えばRPGでラスボス戦を前にあいさつ回りをしているときのような、素敵な「区切り」のエピソードでした。


祐と亜玖璃
 天道、チアキ、雨野の三角関係と並ぶ本作のもう一つの軸、祐&アグリの恋愛。ここの関係については複数の矢印が伸びているわけではなく、相思相愛であることは誰の目にも明らかだったと思います。じゃあなぜここまでこじれているのかと言えば、これもやはり雨野とアグリの関係の深さに起因するものでした。
 雨野からのアグリへの気持ちが改めて(読者的に)明らかになったように、アグリもまた改めて雨野との関係に向き合い、それを「すっごく好き」という言葉で表しました。そしてその上で、「誰よりも祐のことが大好き」だと。それは、雨野がかつてチアキに語った「貴女を女性として意識しているけど、それでもやっぱり天道さんの方が好き」という宣言と同じなのかもしれません。……あれ、こうやって抜き出すとマジで最低な発言だなコレ。流れを追って読むとちゃんと真摯な台詞なんだけど……

 閑話休題。このカップルの障壁は「祐が雨野を越えられるだけの自信を身に着けられるか」ということだと思っていたのですが、こうしてみると「アグリが雨野の存在から目をそらしていた」ということでもあったのでしょう。故に、雨野への好意を「なかったこと」にせず、認めた上で祐との関係を肯定する必要があったと。逆に言えば、そこに目を向けさせるためのここ数巻のアグリのヒロイン感上昇だったのかもしれません。
 めんどくさい遠回りしてるなあと思いますが、だからこそこんなに応援してしまうんですよね。「雨野を越える祐」という点で見ても、彼が悩んでいた八方美人な性格を肯定する形で納得のいく展開になっていますし、心から祝福できるハッピーエンドだったと思います。

雨野とチアキと天道
 祐とアグリがハッピーエンドを迎える傍ら、こじれにこじれたこちらの三角関係にもいよいよ決着。結論から言ってしまえば、この恋愛レースは天道花憐の勝利で幕を閉じることとなりました。個人的な予想願望は前回記事で書いた通りで、まあ大方天道さんルートだろう、と思っていましたので十分納得のいくエンドだったかと。
 結果的には、雨野は揺れながらも最後まで一途な想いを貫き通したという形に。実に雨野らしいと思いますし、さんざんポンコツピエロな役回りを振られ続けていた天道さんが最後に報われる姿は胸に響くものがあります。ここにきて"ラベアーズ"を持ち出してくる告白もドラマチックで、大変気持ちのいい読後感でした。

 ……が、矛盾するようなことを言ってしまうと(願望としては)ワカメ派の自分にはその中にやはりチクりと感じる切なさもあり。本作の恋愛に対する向き合い方は非常に真摯だと(少なくとも私は)思っていますが、だからこそとてつもなく残酷だとも感じます。
 恋を自覚したときには想い人にはすでに恋人がいて、「友情」に抑え込もうと思ってもそんなことできるわけもなく、公平に争うチャンスを得て決死のアタックをしかけるも、最後の最後で届かない。彼女の恋は、最後まで報われることはありませんでした。もちろん、天道さんが嫌いなわけでもなければ展開や作者に文句があるわけでもありません。ですが、少なからず星ノ守千秋という女性を応援していた身としてはやはり……

 ケータのカノジョ面をするチアキが見たかった。外伝で歩のアパートに乗り込むチアキが見たかった。時にケンカして、時にデレ合いながらさらに仲を深めていく2人が見たかった。自分の気持ちを抑えることのない、ただただ幸せなデートをするチアキが見たかった。
 「次とか、代わりとか。そんなのがまるで想像できないぐらい……想像したくもないぐらい、一人の人のことで、頭が一杯になってしまう。それが『恋』だと、私は思うので」(本文より引用)
 これは天道さんの台詞ですが、この後言及されているようにチアキも同じ気持ちだったことと思います。だから、「次の恋」なんて野暮も野暮すぎることは言いません。今はただただチアキの想いを胸に刻み、そして雨野くんと天道さんが彼女の涙に報いる幸せな恋を育んでくれることを祈っています。


12巻に期待したいこと
 恋愛には決着のついた11巻ですが、まだ最終巻ではありません。本編最終巻である12巻が2019年春ごろをめどに発売とのこと。こちらはあとがきでも「『ゲーマーズ!』らしいコメディを」と触れられています。最後にパーっと大騒ぎして終わるのは個人的にも好みの形ですし、ここ最近辛い恋愛模様が続いていましたのでとびきり楽しい話を期待したいところですね。ただ、そのうえであわよくばここはやってほしいかなあと思うこともいくつか。
 ひとつは、「コノハとの決着」。これは明確に(本人の要望により)後回しになってるポイントなので、チアキ天道ほどではなくともしっかりと描写してほしいなと思います。
 もうひとつは「天道から雨野への告白」。好意自体は常々口にしていますが、雨野からの告白が6巻11巻と二度あるのに対してそういえば天道さんからはなかったかなと思いまして(……もしあったらマジでごめんなさい)。すでに恋人なのに告白というのも変かなとは思うのでなければないで構わないのですが、チアキと並び立つためにも改めて気持ちを言葉にして直接伝えてくれたら嬉しいかなと思います。それと、光正からの認識も改められるイベントがあればなおよいですね。

おわりに
 結局短期間で一気に決着まで読む形となりましたが、実に激動の関係性という感じで非常に楽しむことができました。結果は辛かったり微笑ましかったり色々ですが、読者としては本当に良いものを読ませてもらった感じです。現状ですらそこそこ長文になってしまったので触れられてないんですが、コメディ要素もすごく面白いんですよ。天道さん崩壊モードとか南極観測隊とかゴールデンピエロとか(全部天道花憐じゃねえか)。それでいて3つの告白みたいな決め所はものすごくロマンチックに決めてくるあたりがまたニクい、シリーズ通してですがすごく好きなバランスです。
 そんなわけで、残る最終12巻、それとDLC第2弾も楽しみに待ちたいと思います!