しちさん21 (hatena)

アニメや特撮系を中心に、楽曲・映画・イベントなどの感想を書きます。

舞台『 #スクールアイドルミュージカル 』感想


 12/10より開幕した『スクールアイドルミュージカル』。日曜日のマチソワで観劇し、例に漏れず大いに感動したので感想を書いておく。既に東京公演は千秋楽を迎え、来年の大阪公演を残すのみとなっているが、さらなる飛躍にも是非期待したい一作。

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めっちゃ楽しみにしてた

 ラブライブ!ラブライブ!たらしめる要素はいくつかあるけれど、個人的には、「『学校』で『アイドル』!」というキャッチコピーこそがそのコアになる部分だと思っている。すなわち、「学校」「アイドル」の2要素が絡めば後は何をやってもいいのがこのシリーズの強みだと思うし、そうあって欲しいと。もともと「シリーズもの」が好きなのも相まって、従来シリーズに捉われない様々なスクールアイドルの物語があっていいんじゃないかなと思っていた自分にとって、今回のミュージカルはすごく期待できるものだった。
 ミュージカルという媒体は意外だったけど、物語を描く上でアニメや声優ユニット活動に拘る必要はないと思っていたし、馴染みのない媒体ということはそれだけ新鮮ということでもある。そして何より、完全新作というのが良い。既存のキャラクターやストーリーを別媒体に落とし込むとどうしてもメディアの違いを踏まえた変換が必要になるので、最初からミュージカルに最適化されたストーリーを作る方が好みに合っている。この判断をするチームなら期待できるだろうと思ったし、観劇を終えた今、それは正解だったと自信を持って言える。

ミュージカル

 のっけから会話がメロディに乗って進むので、おおこれがミュージカルか、という驚きとともに見始めた。最初は台詞を追うのに苦労するような感覚もあったけど、次第にスッと入ってくるように。段々とミュージカル脳に調律されていった、ということなのかもしれない。
 流石にミュージカルのために集められたキャスト陣だけあって、誰も彼も歌が上手い。ソロでの歌唱は伸びやかかつ綺麗で、大勢での歌唱は圧の強さや音の重なりが心地よい。とても聴きごたえがあった。楽曲も、コミカルなものはひたすら楽しくなるし、心情を歌う曲はじっくりと聴き入ってしまうしで、クオリティは高く幅が広かった。
 それから、そもそもが生の芝居でもあるので映像とはまた違った楽しさがあった。全体的に動きが大きいのはそのままキャラクターの愛らしさにつながっていて、これはアニメーションにも共通する魅力だと思う。主なストーリーが展開しているところに注目が集まるけど、それ以外の場所でも舞台上ならば芝居が続いているのも面白い。
 個人的には、大道具を活用して物語上の場所(シチュエーション)をガラッと変えるのも舞台の好きなところ。椿咲花/滝桜の回転セットは常に存在感があって、こういうのも劇場ならではの仕掛けだなあと思った。

キャラクター

 事前情報や人物設定も含めて考えると、キャラクターは本当に全員魅力的。ただ、そうしたキャラクター全員の魅力を全てストーリー上で表現できていたかというと怪しいかなとは思う。具体的には、シナリオの比重が椿咲花+アンズ、理事長に寄ってる分、滝桜の面々は個性が見えにくかったのが惜しい。もし続編があったら、今度は滝桜サイドのメンバーを軸にしたお話が見たいと思った。

・ルリカ
 一度決めたら全力で突っ走る姿勢はまさにラブライブ!の主人公。であるが故に、進学校の学年トップという学力の高さがなんだか新鮮だった。演じる堀内さんの全力スマイルも印象的。

・ユズハ
 ラブライブ!要素の一つ、幼馴染をやり切ってる人。クライマックスのキーになってるので、ドラマ的にいちばんいい役回りだったんじゃないだろうか。運動音痴キャラがわかりやすい追いかけまわされてるシーンも好きだし、謎の連獅子大回転もあって適度に変な子なのが魅力的だった。

・ユキノ
 ミュージカルなので全体的に動きが大きかったと上で述べたけど、いちばん顕著だったのがユキノちゃんだったと思う。ピョンピョン跳ねてるという形容が似合うような動きで、とても可愛かった。椿家のDNAに惹かれるくだりはヒカルのツッコミと合わせて満場一致で見せ場に挙がるだろう。

・ヒカル
 マーヤがボケ、ヒカルがツッコミという話だったので、コンビでコテコテな感じなのかな?と思ってたんだけど、割と全体がゆるくボケよりなので常識人枠として全般的にツッコミを入れていた印象。一方で、わりとすぐに「アイドルやってみようかな」となるノリの良さみたいなところは体育会系らしさもあってよかった。

・マーヤ
 ドラマ的にはそこまで掘り下げがあったわけではないんだけど、かなり印象に残るキャラクターだった。オタクキャラなんだけど良い意味で熱を上げすぎる感じがなくて、天然系の、ちょっとズレたリズムで生きているようなかわいらしさがあったと思う。「よき👍」は流行らせていこう。
 黒ツインテのアイドルオタクということ、演者の佐藤さんの推しということから矢澤先輩の存在もなんとなく彷彿とさせていたけど、異なる方向性で良いキャラになってるのが素敵だと思う。

・アンズ
 もう1人の主人公。ビジュアルも声質もちょっと儚さを感じる美人さんで、「今の自分」にどこか悩んでいたり、周囲のドタバタに巻き込まれてしまうポジションだったりと、推せる要素モリモリ。尺の関係もあって全体的に急展開だったのは惜しいけど、彼女のストーリー自体は「激しい競争社会に疲れたアイドルが、原点の"楽しさ"を思い出して再起する話」というつくりで、いい話だったと思う。

・ミスズ
 アンズを意識している部長、ということで結構腹に抱えているものがある人なのかと思っていたけど、厳しくも本当に優しい人だったのが印象的。野心家キャラだけど思いやりが強くて、それが滝桜というチームの特徴にもなっていたのではないだろうか。ラストでは部長の任を降りてかなりフリーダムになっていたけど(笑)、改めて人をまとめる立場で奮闘しているところも見てみたい。

・トア
 滝桜サイドの爆弾発言担当。こっちは後輩なのが小悪魔感あって良い。でも別に腹黒とかではなく、アンズ先輩のことも滝桜のこともちゃんと大好きなのが良かった。合併後はユキノちゃんとの後輩コンビにも可能性を感じる。

・レナ
 登場人物紹介の「実はダジャレ好きで隙あらば言いたいと思っているがなかなかチャンスなし。」という言葉の通り、本編だけだとイマイチ個性を出す機会が無かったのが惜しい人。寡黙だけど頭の中では面白いことを考えている人、っていうのはキャラクターとして可愛いし、穏やかながら実力を感じさせるような表情も上手かったので、是非掘り下げを見てみたい1人。

・サヤカ
 こちらもストーリー的な掘り下げはあまりなかったけど、ビジュアルとパフォーマンスでの存在感は強かった。自己紹介的な歌詞のところで「マイクなんていらないわ」というようなフレーズがあったけど、本当に声が強くて聴いていて気持ちよかったのが印象に残っている。

・キョウカ&マドカ
 「学生時代から因縁のある、犬猿の仲な2人」だなんて、そりゃあ人気ぶっちぎりに決まってるよなあ。ミュージカルのキャリアで言えばメインキャスト達よりもずっと多いとあってパフォーマンスは流石の一言だし、ケンカしてるんだけど愛らしい、コミカルなやり取りがシナリオ的にもお芝居的にもとても上手くて、本当にいいキャラクターだった。

「スクールアイドル」とは

 ここからは根幹の部分のネタバレになるけど、本作のテーマはやっぱり「学校の部活だもん、やりたいからやればいいんだよ!」という(ニュアンスの)台詞に集約されている。先の話に戻るけど、ラブライブ!を再解釈すると向き合うテーマはやっぱり「『学校』で『アイドル』!?」になるだろう。このテーマが発明だったのは「アイドル物語から芸能の要素を取り除いたこと」という話だけど、ミュージカルの登場人物たちははじめアイドルを「デビューするもの」「芸能人」と捉えていた。これが意図的なものなのか天然のものなのか、半信半疑で前半を見ていたけれど、「普通の私たちには遠い世界」をあれだけ強調していたり、「アイドル部」という言葉選びをしていたりすることを考えるとやっぱり意図的だよねと。プロに比べて実力がどうだとか関係ないし、必ずしも何かを背負わなくたっていい。ただやりたいからやる。そう気づいた瞬間、椿咲花のアイドル部が名実ともに「スクールアイドル」になるクライマックスが「『学校』で『アイドル』!?」に対するアンサーとしてあまりにも素晴らしかった。「それがスクールアイドル」と高らかに歌い上げる『ゆめの羅針盤(コンパス)』の圧倒的名曲ぶりも相まって、すっかり泣かされてしまったシーンだった。スクールアイドルの概念にいま一度向き合った作品だからこそ、このミュージカルは「ラブライブ!The Musical」とかじゃなくて「スクールアイドルミュージカル」なんだなあ、とも思う。

今後の期待

 まずは多くの人が望んでいることだと思うけれど、今回の公演は是非とも映像化、楽曲の音源化をしてほしいと思っている。舞台演劇ということで生で観劇する魅力が大きいのはわかるけど、形として残しておかないとどうしても記憶が薄れてしまうので、それが怖い。ここに関してはラブライブ!的なお約束が通じるといいなあ。
 当然のように、続編の制作も期待している。ここまでの感想でも書いたように、特に滝桜側のメンツをもっと掘り下げるようなものが見てみたい。舞台だと逆にシナリオは基本そのままでキャストが別、というパターンもあるかもしれないけど、ここもラブライブ!(というかこの手のメディアミックスコンテンツ)のセオリーと競合するのでどっちが優先されるか気になっているところ。いずれにしても、これっきりはもったいないのでまた何らかのアクションはあって欲しい。第2弾公演期間といい感じに重なるくらいにシリーズ合同ライブがあって、そこに椿滝桜がゲスト出演みたいな、そんなことがあったらいいなあ……とぼんやり考えている。

 それから、冒頭にも書いた通り、今回の企画でいちばん嬉しかったのは「全く新しい学校の、全く新しいスクールアイドルの物語」が生まれたことなので、ラブライブ!側の運営にはいい意味でこれに味を占めていて欲しいと思っている。今回はミュージカルだったけど、これからもコミカライズだったり実写映像だったりノベライズだったり、いろんなメディアでいろんな学校の物語を描かれる未来が来ると、個人的にはとても嬉しい。スクールアイドルの世界が、これからももっともっと広がりますように。