しちさん21 (hatena)

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【映画感想】『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』



脚本:毛利亘宏、ゼンカイジャー監修:香村純子
監督:田﨑竜太

 東映特撮2大シリーズである『仮面ライダー』と『スーパー戦隊』。例年夏の時期にそれぞれの劇場版を併映していましたが、今年度はそれぞれのアニバーサリーに伴い、現行作品『仮面ライダーセイバー』と『機界戦隊ゼンカイジャー』を中心にしたコラボ映画となりました。

(以下、ネタバレ含む)

【感想】
 例年と異なる形式、そして久しぶりの戦隊ライダー共演映画である一方で、セイバーにとっては総決算に近い時期の公開。こうした様々な要素から展開の予想がつかなかった本作ですが、観進めていくにつれて前に出る要素が変わり、そのたびに印象も変化するような多面的な作品に仕上がっていたように思います。

 まずは前半。このあたりはセイバーとゼンカイジャーの世界・キャラクターが相互に混ざり合い、素直な「ヒーロー作品2シリーズの共演作」になっていたんじゃないかと思います。『セイバー』が「現実」、『ゼンカイジャー』が「物語」であるというテイで進んでいくのは後半に向けた布石ですが、各作品の世界観を「本」というキーアイテムで表現していること自体がセイバー由来なので自然に見せられていたかと。(といいつつ、セイバーにおける「本」はどちらかというと「知恵や力」の象徴なので主に白倉P由来であろう「物語・作品世界」の象徴という見方はTVシリーズとはちょっとズレてるようにも感じたのですが、それはそれ。)ゼンカイジャーの面々はキャラ付けや芝居が良い意味でまんがチックなところがあるので、セイバー世界・キャラクターの中に投入することで「変な奴らがきた」という見え方になるんですよね。メインで絡むのがセイバー勢の中でも生真面目な倫太郎だったことも活きて、面白いミスマッチが生まれていました。こうしたところでシリーズの違いを魅力的に見せられていたのではないかと思います。

 続く中盤、『西遊記』と『八犬伝』の物語世界パート。ここでは記念作らしく、歴代シリーズのキャストも交えてのシーンが続きました。細かいところまでそれぞれの原典に沿いだすとキリがないので、「物語の中に入っている」という見せ方にするのは良い展開だったと思います。歴代キャストの皆様は出演時間こそ多くはありませんでしたが、それでも確かな存在感を残していくのが「レジェンド」たる所以なのかなと。特に、常磐ソウゴ/仮面ライダージオウ役・奥野壮さんの貫禄には凄まじいものがありました。『ジオウ』という作品自体が特殊な立ち位置なのもありますが、突如現れて不敵な笑みとともに変身する姿はまさに「魔王」そのもの。その後のグランドジオウの無双ぶりと合わせて、シンプルにとてもカッコいい役回りでした。
 同じく仮面ライダー側からは、飛電或人/仮面ライダーゼロワンも登場。ゼロワン→セイバーのバトンタッチ特番での見事なMCぶりを見てから高橋文哉さんの好感度が非常に高くなっているのもあるのですが、久しぶりに全力でスベリ倒している或人社長を見て懐かしくなりましたし、微笑ましかったですね。ラプターとの絡みを多くしたのは「上手く当てはめた」と見るか「イズの代打でそれっぽいキャラをあてがった」と捉えるか微妙なラインですが、それもまた共演作品の魅力だとしておきましょう。また、例年ならばあったであろうセイバーとの共演が飛んでしまったままになっているので、今回共闘が見られたのは嬉しいサービス。残念ながら素面での絡みはありませんでしたが、こちらについてはいつかまたの機会があることに期待したいですね。
 そして戦隊側ではシンケングリーン/谷千明(鈴木勝吾さん)とキラメイブルー/押切時雨(水石亜飛夢さん)が素面キャストとして登場。やはり戦隊の魅力は「チーム」であることなので個々人の出演では印象を引きだしきれないなと感じてしまうところもありましたが、千明は非常に久しぶりの出演で懐かしさがありましたし、時雨は短いシーンの中で爪痕を残そうと工夫されているのが伝わりましたね。もちろん着ぐるみキャラの面々もですが、こうしてたびたび出演していただけるのはファン視点でもやはりありがたいなと思います。

 各物語世界での戦いを終えると、これまで(主人公視点である飛羽真たちからは)「現実」だと思われていた世界までもが『仮面ライダーセイバー』という物語だったと判明。このあたりからは、この映画のテーマである「物語の登場人物たち」という部分に大きく触れていく流れでした。
 こうしたメタフィクションは直近でも『平成ジェネレーションズFOREVER』などで描かれていましたが、『FOREVER』が「登場人物」と「平成ライダーを見てきた視聴者」の関係性を描くメタフィクションだったのに対し、本作は「登場人物」と「ヒーロー作品の製作者」の関係性を描くメタフィクションだったように思います。個人的には『FOREVER』がファンの立場でクリティカルに刺さる作品だった分、比較してしまうと今回はやや伝わりにくかったなというのも正直な気持ちですね。とはいえ、メタフィクション自体は白倉Pのテレビ屋・映画屋としての姿勢が強く感じ取れるのも好きなところですので、今回のような形式も魅力的ではあったと思います。特に、今作にかかわるインタビューでは「自分たちがオリジナルで作り出したシリーズではない」ということをたびたび述べられていたので、そのものずばり「お前たちは2次創作じゃないか!」と指摘してくるアスモデウスのくだりなどもとても真摯に向き合って作っているんだろうなと。石ノ森先生が生み出したヒーロー作品を受け継いで作り続けてきた製作者たちの、「俺たちはこういう思いでシリーズのバトンをつなぎ続けてるんだ」という決意表明のようなものを感じました。……と同時に、劇場で見てるとこの辺からだいぶ豪快な筋書きになってきたなと感じ始めるのですが(笑)。
 演出面では、物語の世界からはじき出された飛羽真が「現実」の世界で過ごすシーンを約9分ワンカット撮影で作り上げたのがこの映画最大の見せどころとなりました。ここはTwitterでも言及しましたが、「LIVE合成」を使っての演出だったのがとても嬉しいポイント。というのも、セイバーは立ち上げの時期からコロナ禍に直面したこともあり、その中でも制作を止めることなく番組を作り続ける手法を確立するために様々な取り組みを行ってきた作品です。そうした取り組みの一つがこの「LIVE合成」、グリーンバックで撮影したキャストの芝居を事前撮影しておいた背景にリアルタイムで合成していく撮影手法ですね。当初の目的はCG合成処理の簡略化やロケの削減だったと思われますが、そうしたきっかけで取り入れられた手法が演出に昇華され、これまでに無かった見ごたえのシーンを生み出している。これもある意味ではセイバーの総決算であると感じられましたし、「ヒーロー作品を作り続けるための時代に合わせた進歩」という意味では今回の映画のテーマにも沿っているなと。様々な意味で、今回の映画を象徴するシーンになっていたのではないでしょうか。

 そしてクライマックス。ここまで自分なりにいろいろと言ってきましたが、ここから先はもうシンプルに「春映画だった」の一言に尽きるな、と。予告の時点でロケーションとヒーローが大集合する画の春映画感がすごかったのでどうするのかなと思ってましたが、実際に観ると「オリジナルのキャストと迷う余地もない(似てない)代役キャストが決めゼリフを一言ずつ喋って攻撃していく」という、だいたい10年くらい前の集合映画をイメージ化したような光景が広がっていて……アクションに合わせて作品ロゴがそこら中を飛び回る映像も若干シュールさの方が勝っていましたし、もう懐かしいやらなにやらで笑いながら見てしまいましたね。それこそ10年前の自分なら残念な気持ちの方を強く感じていたかもしれませんが、ある程度受け流せるようになったのは大人になったというべきか、飼いならされたというべきか(笑)。まあそもそも今回は歴代ヒーロー1人1人を思い返すための映画ではないので、そこに注力する必要もないだろうという気もしますけどね。
 そんな乱戦パートですが、特筆すべきことを挙げるなら「名乗り」「リバイス」「非公認」あたりになるでしょうか。まずは「名乗り」。セイバーライダーの人数の多さやカラーリングは当初から戦隊っぽいと言われていましたが、バンク映像と共に「〇〇の剣士!仮面ライダー〇〇!」と名乗りをあげていくシーンはその極地という感じがしました。留めておいた方が良いラインを飛び越えちゃったんじゃないかという気もしますが、まあ映画全般がかなりライダーに寄っているので名乗りをVSシリーズのフォーマットに落とし込むのは貴重な戦隊要素として納得できるかなとは思います。ここ数年のVSは両戦隊のオリジナル劇伴をメドレー形式で繋いで名乗ることが多いですが、セイバー→ゼンカイジャーでやると落差がすさまじくて笑ってしまいましたね。
 続いて「リバイス」。ポスタービジュアルにいた謎のヒーロー2人は大方の予想通り次回作『仮面ライダーバイス』の戦士だったようで、メインとなる「リバイ」と「バイス」2人の仮面ライダーが本作にて先行登場しました。昨年はいわゆる夏映画としての公開が無くなってしまったのでこのタイミングでの先行登場自体も久しぶりでしたが、今回はそもそも情報解禁前だったこと、参戦の流れが『ディケイド』夏映画でのWを彷彿とさせるような大暴れぶりだったこと、そして何より映画本編終了後にそのまま短編を1話分上映したことでさらなるインパクトを残したように思います。個人的な現時点の印象としては……とにかく木村昴次回作ライダーが望月Pと柴﨑監督の組み合わせになるのは何となく予想がついていたのでキュウレンジャーだなーと考えていたのですが、登場第一声から木村昴が喋り倒しているのでますますキュウレンジャーじゃん!と笑ってしまいました。
 そして戦隊側からもささやかな(?)サプライズとして、「非公認」のセンタイギアが登場。そう、『非公認戦隊アキバレンジャー』を模した力ですね。こうした他媒体(アキバはTVですけど)の作品を拾っていくのはそれこそ『Over Quartzer』の流れも感じましたが、TVシリーズでは出しにくいでしょうしタイミングとしてはちょうど良かったのではないかなと。アキバレンジャーと言えば「八手三郎」と戦ったヒーローなのでそのあたりで本作のテーマと絡められたんじゃないかという気もしますが、近いネタだからこそ下手に触れるとややこしくもなりそうですね。ちょっともったいない気もしますが、あれでよかったのかなと思います。

 ここまで改めて感想をまとめていて気付いたのですが、今回のシナリオでメインだった石ノ森章太郎少年(鈴木福さん)まわりの話全然触れてないですね……(笑)。もちろんそのあたりの話がつまらなかったとまでは言わないのですが、個人的には「元をたどると石ノ森章太郎作品である」という意識がそこまで強くなかったり、あとは単純に創作経験がほとんどない分テーマの響き方が薄かったかな、とは。この辺りは見る人によるのかなという気がしますね。パンフレットのインタビューではストーリーのベースの一つとして石ノ森先生の『青いマン華鏡』という作品が挙げられていて、ちょっと気になったので読んでみようかなと思います。

【総括】
 さて、流石に情報量の多い作品だけあって順に触れていくだけでも長くなってしまったので、改めて総括しての感想を。冒頭述べたようにいろんな面を持った作品ではあるのですが、流れ的にもインパクト的にも最も印象強くなるのはやはり春映画的な要素でしょうか。現行作品2つを冠した集合映画ではありますが、話の軸としては『セイバー』をとっかかりとしたうえでかなりライダーに寄っているので、やはり仮面ライダー集合映画の色が強いと思います。ただ、春映画……というか『大戦』シリーズのようなヒーロー同士のバトル展開がない分、見やすくなっているなという印象ですね。メタフィクションを用いていることもあり、近年の白倉P作品である『平成ジェネレーションズFOREVER』『Over Quartzer』の流れを汲んだ作品と捉えるのが一番近いと思います。と言いつつこの2作もけっこう印象違うんですが、そうした違いも含めて奇しくも三部作のような流れになったかなと。
 最後にごく個人的なスタンスについて言うと、『ゴースト』からの流れでセイバーを応援している身なので何も夏映画枠でやらんでも!という思いも全くないわけではないです。とはいえ、こうした記念作で代表を張っているのもそれはそれで嬉しいですし、あくまで劇場版は劇場版であって本編は本編という考え方も大事なのかなと。なので今後のセイバー単独の長編作品の有無についてはお出ししてくるものに身を任せるとして、今はひとまず戦記とセイバーTV本編をそれぞれ楽しんでいようかなと思います。